DIALOGUE 対談

楠木建が斬る!! エスネットワークスの企業戦略 前編

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 楠木建教授と当社代表取締役社長 須原伸太郎が語る!楠木教授の鋭い視点から浮き彫りになったエスネットワークスだからこそ実現できる企業戦略とは!? その魅力と特異性が実現する”エス”の日本社会への貢献とは!? 1時間20分に渡り語られた深く濃い対談の全貌をご紹介します。

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エスネットワークスの経営理念と戦略について
楠木教授

コンサルティング業界の中でエスネットワークスを特徴付けている点は、コンサルタントの方が企業の中に入っていって実業をしているという部分だと思うのですが、まずは大前提としての理念についてお聞かせいただけますか。

須原

当社の事業の大前提として、経営理念にまずは「経営者の支援」を掲げており、そしてもうひとつ、大きな目標として世の中への「経営者の輩出」としています。
態勢としては大きく分けて2つありまして、1つ目が当社の大きな特徴でもあるコンサルタントの常駐です。常駐部隊はお客様の懐に入って、会計・財務系の実務を請け負います。そして2つ目が、M&Aのアドバイザリーやファイナンスの指南を行う、いわゆるコンサルティングです。

楠木教授

通常のコンサルタントの方たちの仕事、そして他社の派遣業といったい何が違うのかということをお聞きしたいですね。
一般的には、パッケージというか、例えば毎年の確定申告や監査の報告書を提出することで対価が支払われますよね。これらは働く場が「外」です。一方で派遣業は、企業に足りない経理などの人材を埋め合わせするための機能インプットとして提供される。これは働く場が「中」です。

須原

そういう定義で言いますと、当社はある意味では「中にどっぷり入る」ということになります。お客様とミッションやゴールを共有し、スケジュールを引いてひとつひとつの段階を踏んで行く形で業務にあたります。
通常の派遣業は「中」であるけれどもゴールがないしミッションの共有がありませんが、逆に通常のコンサルタントはあくまで「外」。私達は、最終的にお客様が自前でできるように、自分たちのノウハウをどんどん伝えて行きますし、私達がいないと会社が回らなくなるような体制作りというのは一切しません。

楠木教授

会計機能のブロックではなく、会社のために成果を出すアウトプットをミッションとして担っているわけですね。

須原

もちろん正確には階層があるので、新卒等の若手メンバーは実務遂行機能になっている場合があるのですが、これは入口でしかないわけです。例えばこれがチームを率いているプロマネクラスになれば、一つの機能というよりも、お客様にとってミッションを共有したパートナーという形になります。

楠木教授

でもコンサルタントはやりようによってはいくらでも悪くなれますよね。 例えば監査法人だと、コンサルティングファームよりも仕事内容がはっきりと定義されていますから、そんなに悪いことはできないんですけれども、それでも依頼側からすれば「なんでこんなにお金かかるのかな?」って疑問に思いつつも、自分たちではできないから、お願いする以外どうしようもないとなります。一方で、「中」に入って来る常駐なんかだと、我々なしでは回っていかないというやり方もできてしまうわけで。

須原

そのあたりは「誠実にやらせていただきます」と当社もお客様へはっきり言いますよね。決してお客様の仕事を奪うような形にはせず、必ずお客様の内部スタッフを指導して、当社がいなくとも運用できる体制を構築しますからと。

楠木教授

それ以外にも高度外国人人材はたくさんいらっしゃる?

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エスネットワークスの事業の特徴
楠木教授

エスネットワークスのスタッフやチームの役割は、お客様にどのように説明するのですか?

須原

「傭兵」かもしれないと説明することがありますね。
お金をいただきながら身も心も仲間として、同じ勝利を目指して戦う戦友だと。全身全霊で働き、勝つまでやるし、逃げない。

楠木教授

通常ではやっていない方法を取っている。僕の理解としてのキーワードは「食べ放題」です。普通の税理士の先生や監査なんかの業務を1プレイとすると、エスネットワークスは常駐して色々なことをやるので、「食べ放題」ですよね。でも通常の「派遣」だって、この定義で行けば「食べ放題」です。何が違うんでしょうか?

須原

通常の派遣の場合は何を食べたいか顧客サイドで決めるしかないですよね。私達は「このメニューを食べたほうがいいのではないか」、「味付けを変えたほうがいいのではないか?」、あるいは「こんな料理も出来ますよ」とこちらから積極的に発信していくわけです。

楠木教授

なるほど、なるほど。よく分かりますね。
考え方として大きく2軸に分けられるのかなと思いますね。1つ目の軸は、社外の離れたところから提供されるコンサルティング的なもの、そして実際に会社の中に入って請け負う業務という軸ですね。つまりどのような距離や関係性で仕事を請け負っているのかという考え方です。 そして、もうひとつの軸が、業態というか仕事のやり方という考え方なのですが、外注として請け負った仕事を特定の機能としてだけ引き受けるもの、そして派遣として「中」で限定された範囲で業務をこなすもの、そして最後にエスネットワークスのやり方がある、ということですね。 この2軸で考えたとき、エスネットワークスは、「食べ放題」でありながら提案もしていくし、ノウハウもお客様に出していくわけですから、外部のコンサルティングというのはエスネットワークスの在り方として対極と位置付けることができますよね。その“中”での在り方がエスネットワークスなんです、という。

須原

その2軸でいうと、そうなりますね。

楠木教授

もう少し、理解を深めるために整理させてください。
例えば「実」と「虚」という軸があって、「実」には「外>中>深」という3階層があるとするなら、「外」は会計事務所とか税理士事務所なんかになって、「中」は通常の派遣、そして「深」い階層で実務をやっているのがエスネットワークスの在り方だと思うんですね。 それで僕はここがポイントだろうと。

須原

まさにそうですね。
会計人材を一例に挙げれば、会計に明るい人材の進路は圧倒的に監査法人なので、実はほとんど実業のところにいないというのがあります。殊に公認会計士試験に受かった場合は、9割が監査法人に行ってしまうんですから。まずそれが前提としてあります。 ピラミッドに例えると、一部上場企業はピラミッドの頂点に位置していて、全体の1%にも満たないわけですが、実は監査法人に行かなかった残り1割の中で会計に明るい人材というのは、この1%の一部上場企業の中にはけっこういるわけです。一方で、未上場で社員30人未満の会社においては、会計的に難しいことはあまり必要ではありません。つまり一部上場企業と30人未満の会社に挟まれた中間層の企業は、「人材的エアポケット」の中に入ってしまっているわけです。このレイヤーの企業は、一部上場企業と同じ方向を目指していて、一部上場企業と同じだけのケーパビリティが求められるのに、必要なリソースが行かないという状態なんですね。 そこで我々は、創業以来このレイヤーをメインターゲットにしてきました。 このレイヤーは、会社の指示に従ってやれる人材派遣スタッフがいれば成り立つのかというとそうではなくて、往々にして会社側も指示できる人間がいなかったりするので、その部分にトップの指揮官から部下までを一式入れないと、なんともならなかったのです。そこから当社の仕組みが生まれたわけですね。

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エスネットワークスが求める人材とは
楠木教授

ところでこう言ってはなんですが、会計分野を志向する人って、どことなく真面目で、保守的で、一般的な企業でぐいぐいのし上がって行くイメージじゃないですよね。

須原

(笑)。その仮説は僕も否定はしません。でも、面白い人間もいますから、そういう人材を積極的に引っ張ってきているのが当社なんですよね。

楠木教授

そういう人間が何を面白いと思うかというと、例えば監査で外から評価するという仕事だけではなくて、会社の中に入って実業で、しかも会社全体へ影響し、方向付けられるような実感を持っていることだったりすると。そういう人材は、最初からさっき言っていたような「人材的エアポケット」にいる企業に行けばいいってことになりませんか? そこでエスネットワークスに入る意味というのは何になるのでしょうか。

須原

経営に対する距離だと思います。 提案して自ら方向付けをしたい人は、経営に関与したいという志向が強いはずですよね。 そうだとしたら、経営現場により近い環境で仕事ができることを望むはずです。 当社は「座学(MBAや経営学)」と「経営執行の現場」とをコンサルティングを通じてつなげる場です。事業会社で経営に近づく道もありますが、その距離感や時間軸で言えば、当社の方が圧倒的に近く短い。ここがポイントだと思います。
「社長って自分と違う人種だ」と思いがちなのと同じで、経営の世界は一般の人にとってはイメージしづらいんですよね。でも当社で実務系コンサルティングから入って、その会社の社長とミーティングしたり飲みに行くなりしているうちに、だんだん「社長って意外と普通かも」、「自分でも向こう側にいけるかも」みたいな気付きがどこかで生まれるんですよ。 だから当社では、まずは会社の内側に入りこめる実務系コンサルティングからスタートします。そして、その過程のどこかで社長のハードルがそう高いものではないと気づいた人間が、経営への興味を加速させているわけです。

楠木教授

つまり、提案して自ら方向付けをしたい人、すなわち経営への関心が高い人材が、エスネットワークスに来るということですよね。先ほどの「人材的エアポケット」に位置する企業に勤めたとしても、なかなかそういう気付きは生まれないと。

須原

はい。

楠木教授

ということは考え方として、その人材がある種の気付きを得て、その会社に行ってしまうというのもエスネットワークスのミッションとしては「正」なわけですね

須原

そうですね。ただここからは本音なんですけれども、当社も会社なので、5~6年しか在籍しないで一斉に外に出て行かれてしまったら成り立ちません。一定のレンジまでは我々の中で育てられるような声がけはしています。

楠木教授

エスネットワークスは他の会社と立ち位置も差別化されています。何が会社の成長というか、戦略の制約になっているのでしょうか?

須原

ビジネス思考を持ち、独立志向が高く、且つ経営者になりたい人材が母数として少ない中、一方で会社の成長には多くの人材を採用しなくてはならない。これがとてもじゃないが簡単じゃない。しかも人材を育てて一人前にするのに10年かかりますから、それで途中で抜けられたら、やはり投資としては大きなロスになりますよね。
また、中に入って実務を経由しているので、優秀な人材は必ずクライアントから声がかかりますし、実例として実際にクライアント側に行ってしまったメンバーも幾人かはいます。ただその事例も、当社の常駐サービス人材を分母とすると、割合としては極めて低いですが。我々はリスクをある意味では許容しているのですが、世の常としてできる人間から組織外へ出て行くわけで、当社の場合はそのスパンが早いかもしれませんね。

楠木教授

でもそれは同時にキラーパスでもあるということですよね。リスクを受け入れて、そういうことが十分に起こり得るようなことをやっているので、他にはないサービスができる。

須原

それはありますね。それに、そうはいっても全員がいなくなるわけではありませんし、一定数の優秀なメンバーが常にいてくれるわけですから、成長していくことは十分にできています。 あと、これは手前みそかもしれないのですが、社外へ出て行ったメンバーが、「エスらしい人間」とか「エス出身者」みたいに業界で言われるようになっていて、一定の評価を得始めているんですよ。

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エスネットワークスらしさが生まれる秘密とは
楠木教授

「エスらしさ」というのはなんですか?

須原

主体性をもって仕事をこなし、能動的で、且つ前向きだよね、といった感じですね。

楠木教授

目的と手段の対応関係がきちんと取れているということですよね。手段が目的になるようなことがないというか。

須原

お客様と同じ目線で仕事をしますし、なにより私達はビジネス視点から入りますから。

名前

そういえばエスネットワークスの方たちって会計人材や会計コンサルタントらしくないですよね?会計士の方は多いんですよね。 やっぱりそこがポイントなんでしょうね。それでも、会計士っていうのが(笑)。

須原

会計士はいますが、多くはありません。むしろ資格がない方が優秀だったりもします。歌って踊れる会計人材や会計コンサルタントじゃないですけれども(笑)。 会計士というのは運転免許みたいなものだから、大したものじゃないと。ビジネスで裸一貫で戦えるかどうかが全てだと言っているんですよね。
例えば「中」に入ると、ちょっと難しいお客さんって結構いるじゃないですか。当社のメンバーは実務をやりつつも、そういう方と飲みに行くこともして、ちゃんと当社のファンになってもらっている。そうやって「中」で自分のポジションを作ってやっていくことを我々は求めるので、単に頭がよければいいってものじゃないし、会計さえできればいいってものでも決してないわけです。

楠木教授

みんな実際は常駐でどこかの企業に入っているわけですよね? 使っている時間は圧倒的に常駐先のほうが長いにも関わらず、「エスらしさ」が出てくるのはどうしてですか?

須原

これもよく聞かれることではあるのですが、ひととおりのことはやっています。例えば、毎月2回、全員参加の朝会を行っており、実際に顔を合わせて会社の思いや情報、ベスト・プラクティスを共有しています。もちろん地方や海外勤務者などはその場には参加できませんが、Skype経由でこの会議には必ず参加しています。また年度ごとに「MVP表彰」や「抜きん出た仕事大賞」といったイベントを開催し、お互いに褒め合い認め合う文化を大切にし、リモートでも心が繋がる仕掛けをできるだけやっています。
でもそれはあくまでも「おまけ」ですね。 とにかく常駐して一定のところまでお客様をグリップするというのが我々にとってのエリートコースですし、これができなかったら当社にいる意味がないということをひたすら言い続けて来たので、こうしたエリートコースを踏んだレイヤーとそれを目指すその次のレイヤーが、言わば「語り部」として同じことを言っているという、社内伝承が起きていることが大きいのかもしれないです。

楠木教授

一人ひとりがロールモデルになっているということですね。 江戸時代の芸者置屋の話を聞いて僕はしびれたんですけれども、元々は芸者さんって料理屋に所属していたんですよ。それがある時期から置屋に芸者が所属して、料理屋に派遣されるスタイルに変わったんですね。何故かというと、これは芸が荒れるということなのですが、料理屋が繁盛しても、芸がいいからか、立地がいいからか、料理がいいからか、判断がつかなかったんですね。 ところが置屋という制度では、その芸者の善し悪しがダイレクトに評価されるようになるわけですよね。引手数多の芸者さんに対してはリスペクトが生まれるし、同時に「あの人は三味線が巧いからわたしは踊りで勝負しよう」といった自分と違う芸風を持っている人どうしで強くリファーし合うような関係が生まれたんですよ。
大学って芸者置屋と似ていると思っているんです。僕たちは自分の芸を売って生きているわけで、フリーでもいいんですよ。でも置屋に所属する積極的な理由としては、やっぱり同じ大学に所属する他の人を見ることで、自分は何が得意なのか、何が向いていないのかが分かるからなんですよね。
何が言いたいのかというと、エスネットワークスのコンサルタントも、自分の芸(能力)を武器に常駐先に行っているということでは同じですよね。エスネットワークスという軸があって、社内で密に情報共有して、しかも長い間常駐したスタッフが社に戻って来ることでナレッジが蓄積されて、それぞれの芸が更に磨かれていくという循環があるというね。それは、こういう人たちがフリーで外でやっていても、同じことはできないわけで。

須原

まさにそうですね。 実際に社内でも競争はありますし、「あいつはどこに行っても受け入れられて、長い契約を取って帰って来る」みたいなエース級の話は、どうやって仕事をしているのかも含め、ストーリーとして語られます。常駐先で起きた悲喜こもごもがあっちこっちで語られますから、そういう形で語られるストーリーが自然と伝搬されていくというのはありますよね。

楠木教授

で、それがまた同じエスネットワークスの仲間という形でないと語られないし、シェアできないんでしょうね。

須原

そうですね。

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