不当な取引制限による重大な悪影響を避けるためになすべきこと vol.5

企業経営に関して経営陣が知っておくべきコンプライアンス・イシューとして、今回は、独占禁止法(以下「独禁法」といいます。)違反のうち、実務上、最も重いペナルティが科されうる不当な取引制限(カルテル・入札談合等)違反について簡単に説明します。

1.不当な取引制限を犯した事業者には極めて厳しい処分が科されます

1 立入検査を受けたある事業者における対応

ある朝、受付から連絡がきた。聞けば、公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)の審査官が来たという。慌てて受付に赴いたところ、審査官と名乗る者から不当な取引制限の疑いを内容とする告知書を交付され、立入検査等を行う旨を告げられた。また、会議室等の一室の使用と、関係部署への出入りを求められたことから、これらに応じると、公取委の審査官らは、会社の営業部門や経理部門等に立ち入り、営業日報、取引関係書類、会計帳簿、電子メールに関するデータ等を次々と持ち出し、提供した会議室に資料を集め、最終的には、これらの資料の多くについて提出命令を行うなどして、持ち帰ってしまった。また、これと並行して、審査官が、営業部門のある人物から話を聞きたいなどとして、その者に対する供述聴取の実施を求めて来たことから、その者を審査官の元に連れてきて供述聴取に応じさせた・・・。

2 不当な取引制限のペナルティは極めて重いものです

これは、不当な取引制限に関する公取委の立入調査における一場面です。公取委は、事前に情報収集等を行ったうえで、被疑事業者に対し立入調査を行います。そして、この立入調査により収集された資料や、関係者からの供述聴取等から、不当な取引制限が行われたと認定すれば、違反事業者に対して排除措置命令※1と課徴金納付命令を行います。なお、課徴金納付命令においては、原則として、不当な取引制限の対象商品又は役務にかかる違反行為期間中(最大3年)の売上高に対する10%に相当する金額の納付が命じられます※2。
さらに、公取委は、悪質・重大な事件と判断した場合などには刑事告発も行います。その場合は、告発された実行者(個人)と違反事業者に対して刑事罰も課されることとなります※3。
このように不当な取引制限は、これを行った事業者に甚大な悪影響を生じさせるおそれのあるものなのです。

※1違反事業者に対して、①違反行為の取りやめ又は違反行為が排除されたことの確認、②当該違反行為と同様の行為を再び行わないこと、及び③当該行為を行わないことの実効を確保するために必要な体制の整備を命じるものです。
※2課徴金は、取締役個人の責任を追及する代表訴訟の対象となります。
※3実行者である個人については5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科がなされ(独禁法89条1項、同法92条)、法人に対しては5億円以下の罰金が科されます(同法95条1項1号)。なお、不当な取引制限がなされた場合に、その違反の計画を知り、その防止に必要な措置を講ぜず、又はその違反行為を知り、その是正に必要な措置を採らなかった法人の代表者に対しても、500万円以下の罰金が科されます(同法95条の2)。

3 不当な取引制限は容易に摘発されるようになっています

公取委による不当な取引制限の立件にあたっては、平成17年改正法により導入された課徴金減免制度(いわゆるリニエンシーの制度)が重要な役割を果たしています。
この制度は、事業者が、公取委に対して、自らが関与した不当な取引制限について、その違反内容を自主的に報告した場合、それが立入調査等による調査開始前の最初の報告であれば、その不当な取引制限に基づく課徴金が全額免除されるというものです(なお、2番目の報告者は50%、3番目以降の報告者は30%※4の減額を受けることができます)。
また、先ほどご説明しましたとおり、不当な取引制限に対しては刑事罰も科されますが、調査開始前の最初の報告者については、この刑事手続も免れることができるものとされています※5。
そのため、課徴金減免制度の導入以降、不当な取引制限を犯した事業者にとっては、他の事業者が課徴金減免にかかる報告を行ってしまう前に、速やかに報告を行うことが極めて重要となりました。その結果、不当な取引制限は、毎年相当数の課徴金減免のための報告がなされるようになっており、これまでよりも容易に摘発され得るものとなっているのです。

※4課徴金の減免を受けられるのは、調査開始前の報告者及び調査開始後の報告者を合わせて最大5事業者(うち、調査開始後の報告者は最大3事業者まで)ですが、調査開始前の4番目及び5番目の報告者並びに調査開始後の報告者が課徴金の減額を受けるためには、既に公取委が把握している事実以外の事実の報告又は資料の提出が必要です。
※5平成17年10月17日付け公正取引委員会「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」

2. 独占禁止法コンプライアンス体制を確立する必要があります

1 大手企業以外も不当な取引制限の対象となり得ます

不当な取引制限は、一般的に、関係事業者の市場シェア(の合計)がある程度高いものでなければならないと解されていますが、このことは、いわゆる大手企業だけが気をつければよいということを意味するものではありません。
すなわち、事業者団体ないし同業者の会合(必ずしもオフィシャルな会合ではなく私的な集まりも同様です)が、不当な取引制限の機会となり得ることは広く知られたところですが、このような会合等において、価格引き上げの合意が行われるなどした場合、これに参加した事業者は、大手企業でなかったとしても、不当な取引制限を行ってしまうことになるのです。
現に、平成26年に排除措置命令・課徴金納付命令がなされた段ボールシート及び段ボールケースに関する不当な取引制限においては、東日本段ボール工業組合における会合等を通じて価格に関する合意がなされたと認定されました。その結果、段ボールシートに関しては57社、段ボールケースについては63社が不当な取引制限を行ったものとされ、段ボールシートについては合計31億6,229万円、段ボールケースについては合計81億5,280万円もの課徴金が課されました。不当な取引制限は、中小企業も含めた全ての事業者において、注意しなければならないものといえます。

2 確立すべき独禁法コンプライアンス体制の概要

不当な取引制限は、一度行われると極めて大きな悪影響を生じさせるものですので、事業者においては、不当な取引制限を行わないように、また、万が一これを行っていた場合には、直ちに課徴金減免のための報告その他の対応ができるように、独禁法コンプライアンス体制を確立しておく必要があります※6。
このコンプライアンス体制としては、例えば右のものが挙げられます。また、公取委の調査が入った際の対応等も予め準備しておく必要があります。これは、立入調査がなされた後であっても、最大3事業者まで(ただし、立入調査前の報告者と合わせて最大5事業者まで)課徴金減免のための報告を行うことで、30%の課徴金の減額を受ける可能性があるからです※7。とりわけ立入調査は、関係事業者に対して一斉に行われることから、他の関係事業者においても、自らが不当な取引制限違反の被疑事業者となっていることを同時に認識することになります。そのため、(他の事業者に先駆けて)迅速かつ適確に課徴金減免のための報告を行えるようにするためにも、(本稿の冒頭に記載したような漫然とした対応ではなく)告知書の記載内容の確認、弁護士その他関係箇所への連携、関係者からの事情聴取などの手順を定めた社内マニュアル等を設けるなどして、危機時の対応に関する取り決めを行っておくことが重要です。

※6その他、違反事実を自主申告した従業員の社内における処分を軽減する社内リニエンシー制度を設けることも検討に値します。
※7課徴金減免にかかる報告をしなかったことを理由の1つとして取締役の個人責任を追及した代表訴訟において、最終的に、役員が5億円を超える和解金を支払う内容の和解がなされた例があることにも留意が必要です(住友電工株主代表訴訟事件)。

1.トップから、会社の利益のためだとしても独禁法違反は許されない旨 を従業員等に対して明確に伝える。
2.独禁法違反が懲戒の対象となることを就業規則等に明示しておく。
3.コンプライアンス・マニュアルにおいて自社の業務に即して 独禁法に関する実践的な内容を整理しておく。
4.従業員等を適宜内部の研修又は外部の講習等に参加させて 独禁法に関する知識を習得させる。
5.営業部門等が必要に応じて独禁法に関する相談をすることが できる体制を設ける。
6.内部通報制度を設け、独禁法違反をその対象に含める。
7.営業担当者等についての同業者との接触に関するルールを設ける。
8.原価計算・見積金額等の合理性の確認や、営業部門における通信・ メールの確認等といった、独禁法に関する監査を実施する。

3. 終わりに

不当な取引制限違反は、事業者において、独禁法コンプライアンス体制を構築することで、その発生を防ぎ、又はその影響を軽減することが可能です。しかしながら、そのためには、自らの業務内容に応じた実践的なコンプライアンス体制の構築が不可欠です。そのため、その道に明るい専門家とも連携したうえで、予め十分な検討を行っておくことが重要です。

執筆者プロフィール

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東道 雅彦 牛島総合法律事務所 パートナー

国内外のクライアントに対する企業法務 に従事している。競争法の分野では、国外 の弁護士と協同して、国際カルテル事件に 関する当局調査への対応や紛争処理(刑事、 集団訴訟、仲裁等)などの案件を扱う。
1993:東京大学法学部卒業
1997:弁護士登録(第49期)、牛島総合法律事務所入所
2003:ニューヨーク大学LL.M.修了
2004:ニューヨーク州弁護士登録
2005:牛島総合法律事務所パートナー就任

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