コンプライアンスの最前線

2018年3月30日、日本取引所自主規制法人は、「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」を公表しました。当該プリンシプルにおいては、不祥事につながった問題事例として以下のものが挙げられています。 ○内部告発が隠蔽され、上位機関まで報告されないなど、内部通報制度の 実効性が欠如 ○社内の複数ルートからコンプライアンス違反に係る指摘がなされても、  調査担当部署が表面的な聴き取り対応のみで「問題なし」と判断。 違反行為の是正や社内展開等を行わなかった結果、外部からの指摘を 受けて初めて不祥事が露見し、企業価値を大きく毀損 「当社は企業不祥事とは無縁である」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、企業を動かしているのが人間である以上、間違いを犯さないということはありません。また、日本型の長期雇用慣行が変化しつつある現代社会においては、従業員の企業への帰属意識にも変化が生じています。さらには、情報技術の飛躍的な発達により、SNS等を通じて情報を容易かつ即座に拡散することが可能となっています。しかも、いったん表に出た不祥事は、マスコミにより瞬時に増幅されて、社会的な非難の対象になるといったことにもなり得るのです。例えば、コンビニエンスストアや飲食店の従業員が、気軽にSNSに投稿した写真等が、企業を巻き込んだ社会的非難の対象となったことはご記憶の方も多いことと思われます。 不祥事がもたらす企業への影響は事案によりさまざまですが、深刻なダメージを受けた企業も枚挙に暇がありません。消費者等による商品の買い控え、業績の悪化、ひいてはトップの辞任や企業自体を崩壊の危機に追い込むことすらあるのです。実際、2012年以降、5年連続でコンプライアンス違反を契機とした倒産件数は200件以上※1とされています。

発生した不祥事を早期かつ的確に発見・対応し、これを重大化させずに、企業への悪影響を最小限とすることの重要性は、上場会社であるか否かに関わりません。上場会社・非上場会社のいずれであっても、不祥事を早期に発見し、かつ適切に対応するための取組みが必要となるのです。 前述の「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」は、その名のとおり、上場会社を対象としたものですが、当該プリンシプルは、「事前対応としての不祥事予防の取組みに資するため」に策定されたものであり、その記載される内容の多くは上場会社・非上場会社のいずれかを問わずに有効なものです。 その「プリンシプル」においては、以下のように記載されています。 ○本来機能すべきレポーティング・ラインが目詰まりした場合にも備え、内部通報 や外部からのクレーム、株主・投資者の声等を適切に分析・処理し、経営陣に 正確な情報が届けられる仕組みが実効性を伴って機能することが重要である。 内部通報制度は、組織内の不正をいち早く把握するための内部者からの情報伝達ルートを確保する制度をいいます。 不祥事も本来、会社が予定するレポーティング・ラインを通じて報告されるべきものではありますが、組織的な不正や管理職が関わる不正などの場合には、レポーティング・ラインを通じた報告が機能しなくなることがあります。そのため、不祥事を早期に発見するためには、事情を知った従業員等からの本来のレポーティング・ラインを外れた通報が極めて重要となるのであり、かかる通報のための制度(内部通報制度)が有効なツールとなるのです。 まだ内部通報制度を導入していない企業においては、その導入を積極的に検討すべきです。

このような内部通報制度を設けるにあたっては、根拠となる規程を策定してその内容・手続を定めるほか、通報窓口や通報内容を調査するための組織などを準備する必要があります。また、従業員等に対して、内部通報制度を周知することも必要です。 なお、不祥事に関する通報であったとしても、同僚や上司を告発する際には、報復的な取扱いを受けることへのおそれといった心理的抵抗を感じることが少なくありません。そのため、内部通報制度を機能させるにあたっては、このような心理的抵抗を少しでも取り除くために、以下の取組みを行うなどして、従業員等が利用しやすい、信頼される制度としてゆくことが重要です。

内部通報制度が機能すれば、組織内の不正の早期発見が可能となるほか、会社の外部に情報が流出する前に自社内部で問題を解決し、必要に応じて公表するといった対応も可能となります。会社において外部に発信する情報をコントロールできるので、不祥事の悪影響を抑えることができるようになるのです。 もっとも、内部通報制度を既に設けている会社であっても、それが機能しているかについては常に見直しが必要です。特に、内部通報制度による通報件数がきわめて少ない(またはゼロ)といった会社においては、それが、内部通報制度に対する信頼の欠如や、利用しにくい制度であることを原因とするものでないかを検討する必要があります。仮にそれらが原因である場合には、内部通報制度が存在するにも関わらず、通報者が、監督官庁やマスコミへの内部告発を行い、企業は、その内部告発の結果として行われる取り締まりや報道によって、初めて不祥事を知るといった事態が生じるおそれもありますので、改善策を早急に採る必要があります。 このように内部通報制度は、単に導入するだけでは、十分な効果を上げられないおそれもありますので、その導入や見直しにあたっては、適宜、その分野に明るい弁護士の助言も受けて検討することが肝要です。

執筆者プロフィール

東道 雅彦 牛島総合法律事務所 パートナー

国内外のクライアントに対する企業法務に従事している。競争法の分野では、国外の弁護士と協働して、国際カルテル事件に関する当局調査への対応や紛争処理(刑事、集団訴訟、仲裁等)などの案件を扱う。

川村 宜志 牛島総合法律事務所 パートナー

会社関係訴訟や一般企業法務に従事するほか、独占禁止法違反または企業結合規制に関する公正取引委員会への対応、独占禁止法関連訴訟その他国内外の競争法に関する各種相談などに従事。

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