トップランナーの視点。

株式会社ALE 代表取締役社長/博士(理学) 岡島 礼奈

1979年生まれ。鳥取県出身。東京大学理学部天文学科へ入学。大学院へ進む。在学中に家庭教師派遣やIT事業で起業する。人工流れ星は、大学の仲間と天体観測した「しし座流星群」に胸を打たれ思いつく。博士課程修了の2008年、基礎科学へ資金を流したいとの思いから、資金流通を学ぶためにゴールドマン・サックス証券株式会社へ入社。証券戦略投資部で債券投資事業などに1年間従事。その後、新興国進出を支援するコンサルティング会社を仲間と起業するも結婚と出産を機に仲間へ託す。そして、2011年。基礎科学の発展に寄与する、という長年温めていた夢を実現するために株式会社ALEを設立。その事業の魅力にメンバーと投資家が引き寄せられ、ついに2020年春、人工流れ星が宇宙から舞い降りる。

イノベーションを巻き起こし、時代を牽引する人とは、
どのような視点や考え方を持っているのでしょうか?
そのヒントを探るべく当社代表の須原伸太郎が時の人物に迫ります。

2020年、春。瀬戸内海上空に、明るく輝く「流れ星」が流れます。それは、人類が初めて体験する世界初の「人工流れ星」です。手掛けるのはCEO岡島礼奈氏が率いる日本の宇宙ベンチャー企業、株式会社ALE(エール)。人工衛星を使い、流れ星を生み出すという、誰もやろうとしなかった夢に挑戦し、現実のものにしました。この事業は2018年3月に行われた内閣府主催の宇宙シンポジウムで、安倍総理へ岡島氏が直々に説明するほどの注目ぶり。そんな日本の期待を一身に背負った壮大な事業とは裏腹に、まったく気負いのない穏やかな岡島氏。その静かなる大志に迫ります。

研究者に向いていないから。

須原
私がいつも必ず聞くようにしているのが子どものころの夢です。岡島さんはやはり天文学者でしたか?

岡島氏
時期によるのですが、小学生でなりたかったのはムツゴロウさんです。テレビで動物王国がブームとなっていて、動物に囲まれて暮らすのが夢でした。宇宙に興味を持ったのは、実は中学生なんですよね。『ホーキング、宇宙を語る』が流行っていて、それを読んで面白いなって。私は星座に疎くて、オリオン座ぐらいしかわからないのですけど、宇宙の成り立ちにすごい興味が出てきて、故郷の鳥取の夜空を眺めながら、あの星は何光年離れているんだろう、あそこら辺にブラックホールがあるのかなって見ていることが好きでした。これが宇宙への入り口ですね。それからです。宇宙物理学者になりたいなって。

須原
中学生で『ホーキング、宇宙を語る』は衝撃的です。難解ですよね。

岡島氏
難しいです。だから理解はできていないんです。科学雑誌『Newton(ニュートン)』の特集で『ホーキング、宇宙を語る』の解説図が出ていて、その図が読めるかどうかくらいのレベルでした。

須原
ホーキングで宇宙に憧れて、宇宙物理学者になりたいと東京大学の天文学科へ入りました。でも、そこからJAXAではなく、ゴールドマン・サックスへ行かれましたよね。

岡島氏
そうですね。その根底に流れているのは、研究者として宇宙を解明したり、科学に貢献したりしたかったからなんですけど、私は研究者には向いていなかったんですよね。ただ、基礎科学の分野は非常にお金が必要で、望遠鏡に何百億円もかけて宇宙を眺め、新しい発見があるような世界です。研究者とは別な道で基礎科学をサポートする方法はないかと考えました。例えば、国の予算だけでなく、財団をつくって民間のお金を基礎科学に流すルートをつくれないか。いずれ流れ星の会社をつくりたいと思っていたし、起業するのであれば、金融知識は必要です。絶対に投資を受ける立場になるから、投資家さんの気持ちは知っておいたほうがよいと思って、ゴールドマン・サックスに行ったんです。

須原
研究者には向かないとおっしゃいましたが、なぜそう思ったのですか?

岡島氏
まわりの同級生、先輩、後輩を見ていると、寝ても覚めても研究のことを考えているんですよね。それこそ寝食忘れて没頭している。私はそこまで集中できなくて、割と雑念が多いというか、お腹がすいたらご飯を食べたくなるし、ダメだなと思ったんです。授業もついていけなかったです。素粒子論?はぁ?ちんぷんかんぷんで(笑)。

須原
岡島さんをもってしても、そういう世界なんですか?

岡島氏
天文学科長に「岡島さんね、正直、研究者向いてないよ」と言われたんです。 須原:そうハッキリ言われるものですか? 岡島氏:ハッキリ言ってくれましたね(笑)。でも、ごもっともだなって思いました。

須原
(笑)。では、ゴールドマン・サックスを選んだのは、基礎科学への貢献を違う切り口でできないかという理由もあったと。そうすると、今、ALEは人工流れ星のエンターテインメント事業のほかに、大気圏のデータを取って学術に活かすこともやろうとされていますよね。これは、学生時代の思いが少しずつかみ合ってきているということですね。

岡島氏
おっしゃる通りです。ALEは人工流れ星のエンターテインメント企業と思われがちなんですけど、実は、流れ星が光る高層大気は大気圏の中でもっとも謎に包まれた場所のひとつで、人工流れ星の取り組みを通じて、これまでわからなかった高層大気の挙動を観測して、物理学の発展へ貢献していくという新しい取り組みを行っているんです。新しいという意味は、民間企業が宇宙物理や宇宙系の科学を発展させるということで、結構珍しいところなので、そこがちゃんとできそうだという確信があります。


ゴールドマン・サックスと真逆の仕事。

須原
ゴールドマン・サックスでは、証券戦略投資部で日本企業向けに債券投資やプライベート・エクイティ・ファンドを担当されていたそうですが、想像がつかないですね。

岡島氏
今となってはそうですよね(笑)。当時の上司には、教えたことと真逆のことをやっていて、面白いって言われます。当時は感情を排して数字だけを追え、という世界で、その世界にいたはずの私が、流れ星を流したいという感情だけで今やっている。夢を追っていること自体が当時とは真逆なんでしょうね。でも、当時の仕事も楽しかったです。

須原
ゴールドマン・サックスを辞めたあとは?

岡島氏
2社目の起業をしました。実は1社目は在学中です。ゲームやアプリ開発の企業をやっていました。2社目は、日本企業の新興国進出を支援するコンサルティング会社で、私が参加していたのは数年でした。今は一緒に立ち上げたメンバーがやっています。

須原
それは岡島さんのキャリアにとって、どういう位置づけでしたか?

岡島氏
自分に足りていない能力は何かと考えたときに、外国語で仕事をしたことがないなと思って。今も英語が苦手なんですけど、中国語や英語でコミュニケーションしながら、海外と協力してビジネスをする経験を積みたいと思ったのがひとつありました。

須原
ALEは3社目ということで、岡島さんはいわゆるシリアルアントレプレナーですね。何度も新しい事業を立ち上げる連続起業家。

岡島氏
それは上場させている起業家だと思うので、私には当てはまらないのではと思いますよ。

須原
では、岡島さんご自身はゼロを1にする起業家と、1を100や1,000にする事業家という分類があるとすれば、どちらでしょうか。

岡島氏
私、絶対、ゼロイチだと思いますね。1から100はちゃんとした人じゃないとできないと思います。

須原
アイデアをつくっていく瞬間が楽しい。

岡島氏
かもしれないですね。もしかすると、新しい事業を探す方向に行くのかもしれないです。でも、先のことなので全然わからないです。


リスクマネーと失敗への許容。

須原
今、宇宙開発が盛り上がっていますが、以前、岡島さんから聞いた話では、宇宙開発は意外に古風な世界で、アポロ計画の時代から画期的な進歩がないと。

岡島氏
そうなんですよね。

須原
とはいえ、宇宙開発は最後のフロンティアと言われています。そこで日本がアドバンテージを取っていくためにはどういう試みが有効ですか?

岡島氏
今、民間企業がすごいいろいろ出てきていますが、やっぱり盛り上がるためには、まずお金が必要だなって思います。リスクマネーと言えばよいのかな。リスクを取ってもよいお金があれば、日本の宇宙開発はもっと進むと思うんですよね。アポロ計画は兆単位の予算をかけていましたから。今、日本の宇宙関連の国家予算は約3,000億円ちょっと。民間はそれよりもちろん少ないです。そう考えるとリスクマネーが一番かなと思いつつ。あとは、失敗に対する許容ですかね。日本は失敗するとネガティブに振れることが多いのですが、失敗からすごい得るものがあって、次にリカバーできるデータを集められるんです。今ではすごい成功確率を誇っているH-Ⅱロケットですら、昔は失敗していましたし、失敗するのは当たり前って言ってはいけないけど、そういうものだという許容が必要で、すぐに前を向ける社会的雰囲気というのでしょうか。でも、私たち宇宙ベンチャーの人たちは社会的雰囲気がどうであれやると思いますが、そういう雰囲気があるともっといろんな人が挑戦しようと出てくるし、裾野が広がるんじゃないかなって思います。


基礎科学との必要性とは。

須原
岡島さんに教えていただきたいのは、例えばノーベル賞を受賞した本庶佑さんはガン治療というわかりやすい研究分野でした。一方で、ニュートリノの発見は、私たちの生活や生命にどうプラスに働いていくのかが、素人にはわからなかったりします。

岡島氏
それはおっしゃる通りだと思っています。確かにそうなんです。例えば相対性理論ができたときも同じでした。光速に近づくと時間の流れは遅くなるという。

須原
素人では意味がわからない話ですよね。

岡島氏
そんな話がわかってどうするのって思いますよね。でも、相対性理論がないとGPS(全地球測位システム)はできていないんです。つまり、基礎科学は何に役に立つかはすぐにはわからない。ニュートリノも現時点では発見されただけなんですけど、突き詰めていけば、素粒子ってどうなっているのかが、どんどんわかってくるはずです。例えば、今、私たちが触れている物質は全宇宙の中ではせいぜい5%を占めるくらいで、残りの95%はまだわかっていません。それを知るためにニュートリノの研究がある。しかし、その研究をどこまで進めるのか、何がわかるのかは誰もわからない。ただ、きっと未来で自分たちの想像をはるかに超えた、生活をガラッと変える技術革新が起こったときに、「あっ、これはニュートリノが解明できたからだ」と。そういうものが絶対にできるはずなんです。

須原
それを聞いて、ある人が言っていたことを思い出します。国が一番のベンチャーキャピタルで、長期でイノベーションを後押しできるのが、唯一国なんだと。だから本当は国がもっと気合いを入れて投資すべきだというのが、ひとつありますよね。

岡島氏
おっしゃる通りです。確かに必要なんですが、最近はどんどん予算が削られてきていて、基礎研究は特に。成果のわかりやすいものへ予算が振られていく。これからの日本は大変だなって、すごく問題を感じています。アメリカだと有名な財団がカバーして基礎研究が底上げされているケースがあります。

須原
予算の配分の問題ですね。

岡島氏
飢えを助けるのとニュートリノ、どっちにお金をかけるのか?ほんとに難しいのですけど、将来、飢えてる人を減らすのは、もしかしたらニュートリノかもしれないんですよね。だから、すごい難しい問題なんです。


地域にお金を降らせる流れ星。

須原
2020年の春に、ALEの人工流れ星が流れますよね。

岡島氏
広島・瀬戸内地方の直径200キロの圏内で、世界初の人工流れ星を流すイベントをやります。ただ、流れ星を流すだけではなく、地元の方々が率先して盛り上がるような仕組みを考えたいと思っています。人工流れ星という夜空のエンターテインメントによって、その地域には観光客や宿泊客が増えますし、地域へお金が落とされますので、地域の皆さんにはすごく喜ばれています。広島・瀬戸内地方は、海もあり山もあって、歴史的建造物もある素敵な場所です。地域の魅力と人工流れ星のコラボレーションで盛り上がっていけたらなと思っています。

須原
人工流れ星に合わせたイベントも開催されますか?

岡島氏
いろいろなコラボレーションがあると良いなと思って組み立てている最中です。例えば、アートや音楽とのコラボとか、そういう方向でつくろうとしています。人工流れ星事業は「Sky Canvas」と名付けていますが、大きく3つのビジネスモデルがあると考えています。1つはALEがイベントをオーガナイズするイベント収益モデル。2つ目はテーマパークや音楽イベント、誕生日に流れ星がほしいという要望に応える単体販売モデル。そして3つ目がIP(知的財産)モデル。人工流れ星を流すこと自体をIPにして、音楽や小説をつくって権利収入を得るモデルを想定しています。ともあれ、2020年春の人工流れ星を成功に近づけるために、今、様々な検証実験を繰り返しています。

須原
2020年に成功したら、次の2021年は東日本大震災からちょうど10年ですので、復興支援策としても何かできそうですね。

岡島氏
そうですね。祈りを込めて。人工流れ星で何かできるといいですね。


下手なプライドは捨てる。

須原
では、最後に。経営者として譲れない信念や信条を教えてください。

岡島氏
最近、偉大な経営者の方々とお会いしたり、本を読んだりする機会がよくあって、みんなすごいなと感心しつつも、私はちょっと違うタイプだなと思うんです。私は自分が引っ張っていくタイプではまったくないんですね。むしろ、自分ができないところをみんなに補ってもらってチームとして成り立っている。なので、信条は下手なプライドは捨てる。くだらない自分のプライドに固執するくらいだったら、できる人に頼もうという感じです。

須原
みんなのために、社会のためにを大事にしているから、すべてを自分が仕切ろうという変なプライドは持たない。みんなが助けたくなるというのは、岡島さんの魅力ですし、フォロワーシップを引き出せる力ですよね。

岡島氏
そうですかね。そのスタイルがいつまでもつかもわからないですが、日々悩みつつも、今はそのスタイルでやるしかないと思っています。

須原
きっとメンバーの皆さんは岡島さんだったら大丈夫。大丈夫なんだけど、ここはちょっと手伝ったほうがうまくいくだろう。そんな位置にいらっしゃるんだと思います。

岡島氏
でもやっぱり、人工流れ星をはじめALEのプロジェクトそのものの魅力はあると思います。宇宙が人を引きつけているところはたくさんあると。

須原
そのビジョンを言い出して、実際に行動に移したのは岡島さんです。そこがたぶん一番強いと思います。人工流れ星を思いつく人はいたとしても、やる人はいないですから。

岡島氏
確かに、やる人はいなかったですね。

須原
岡島さんは新しい感じの起業家なんでしょうね。全然、気負いがないですし、ZOZOの前澤友作さんと似たものを感じます。好きなことをやっていたら、ああなってしまったと。肩の力の抜け具合が似ています。

岡島氏
いやいや、光栄です。あんなふうになれたら良いですけどね。私も月旅行に行くと言いだしたい(笑)。あれは素敵なプロジェクトですよね。

須原
岡島さんの人工流れ星も十分すぎるほど素敵なプロジェクトです。2020年の春、楽しみにしています。本日はありがとうございました。

編集後記

しし座流星群を見て、「綺麗だなあ」「ロマンチックだなあ」と思う人はいても、「自分で流れ星を流してみよう!」と考える人(考えた人)は、まずいないと思います。天文学という学術的なバックボーンに、金融で学んだお金の流れと投資家心理。岡島さんという稀代のビジョナリストが、一見、まったく関係のないアカデミックの世界とビジネスの世界を、軽やかに横断し、跳躍することで、ALEは誕生しました。
初めてお会いする前は、キレキレの科学者兼経営者を想像していた分、リズムやテンポがゆったりしている岡島さんにギャップ萌え(笑)を感じ、以降、その魅力にどんどんと引き込まれていきました。
2020年春に予定している世界初、人工流れ星の天体ショー。人工流れ星の制御精度を緻密に高めつつ、人々に夢を与えるべく魅力的で大胆なマーケティングを展開するこの一大イベントの成功を願ってやみません。

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