MIRAI会議レポート

先進諸国の例に漏れず、わが国も急速に高齢化社会が進展して久しいですが、とりわけ2010年代に入って問題視されていることは、社会において継続的に人口が減少していく、いわゆる人口減少社会という局面にいよいよ入ったことです。社会全体の活力を削ぎかねないこの問題は、中小企業問題として捉えるのであれば、高齢化による経営者の承継問題に端を発するとともに、これまでの産業構造の根本的な転換を迫られるため、主力事業の可能性を今一度分析し、再構築することを強く求められる傾向にあり、そのため事業リソースが限られる中小企業が抱える問題の解決を一筋縄でいかないものとしています。

当社は、CFO機能の提供を通じて、ベンチャー企業や中堅中小企業をプッシュアップ支援することを社是としていますが、これをより具体化する取り組みとして、中堅中小企業に対して積極的な投資活動を展開している東京中小企業投資育成株式会社(以下、「投資育成社」)が推進しております、「MIRAI会議」と銘打たれたプロジェクトに参画しております。

「MIRAI会議」は、事業承継を行う後継者(候補)及び次世代幹部の当事者意識の醸成を目的に企画されました。投資育成社としましては、経営者に寄り添う株主という立場から投資企業を積極的に支援することに社会的意義があります。こうした動きを投資育成社で積極的に展開されていたのが、投資育成社の業務第五部長であります田中保行部長でした。当社は過去の業務案件で田中部長と一緒にお仕事をさせていただいたご縁がありますが、2017年に改めて邂逅し、新しいことができればと議論を重ねてまいりました。その結果産声を上げたのが「MIRAI
会議」です。

「MIRAI会議」は、3カ月を1タームとして設定しています。参画企業は若手層を中心に参加メンバーを12名程度選抜し、概ね6名ごとにチームを組み計2チーム体制で一ヵ月に一度の会議開催を重ね、最終的には役員の前で自社のあるべき姿についてプレゼンテーションを行います。このプレゼンテーションの準備を通じ、参加メンバーは自社事業の現状把握とあるべき10年後の未来像とのギャップを認識し、それをどう縮めて現実のものとするかを徹底的に議論していきます。当社からは、事業承継はもとより、幅広い経験を積んだコンサルタントが会議のファシリテーターとして参加し、参加メンバーのリサーチや議論について、ハンズオンコンサルティングの現場で不可欠である客観的分析の手法や仮説構築、具体的な課題解決についての知見を注入することで、議論の具体化の一助を担っています。

本稿では、これまでに実施した「MIRAI会議」の中でも、特に参加メンバーの入念な事前準備によりプレゼンテーションで頼もしい姿を披露したことで評価が高く、加えてその質的充実によって聴衆である社長をはじめ、役員の方々にもたらされた感動が殊に印象的であった菊水酒造株式会社の「MIRAI会議」について、同社代表取締役社長の髙澤大介様にお話をお伺いしました。

松田
「MIRAI会議」に取り組むにあたり、企業経営の問題であったり、事業承継の問題であったり、社長がお悩みになっていらしたことがあったと思います。その上で、「MIRAI会議」に期待いただいていた点を教えていただけますでしょうか。

髙澤社長
私は1959年生まれでして、間もなくちょうど還暦に入るタイミングですが、私自身としてはまだ30歳くらいの感覚なんです。実際に身体もメンタルも健康体で、タニタの体組成計で計測しても、まだ30歳と計測結果が出る(笑)。ただそうは言っても還暦ですから、この先の準備をせねばなりません。事業承継でいいますと、幸い私には息子がおり、その息子が「事業を継ぐ」と言ってくれています。ただ傍で見ていると、有り難くも「継ぐ」と言ってくれてはいるものの、実際「継ぐ」ことの意味までは分かっていないと感じます。まあ宣言している以上、彼がこれから苦しんで1つ1つ体得していくのだと思いますが、一方で問題なのは、承継者である息子とともに歩んでくれる人たち。つまり息子を引っ張ったりあるいは背中を押してくれたりする次世代の社員たちが育っているとは言い難いものでした。これは大きな時代背景によるものでもあって、この日本経済の「失われた20年」は誠に不遇の期間で、当社にとっても成功体験を持っている者が極めて少なくなってしまった。そういった成功体験がない人間が、強いリーダーシップを取れるかというと、それは難しいでしょう。当社もご多分に漏れず、社員はみんな穏やかだし、いろいろなことを社内で若い世代へサジェスチョンしていて結構なのですが、どうしても勢いに欠けるところがある。将来を考えたときに、どういった思考回路を用いてどういうフレームワークで考えたらいいか、教えられる者がいないんです。 こうしたことにはたと気がついたときに、当社の株主である投資育成社さんが、「MIRAI会議」のお話を持ってきてくださり、一も二もなくすぐさま「やらせてください」とお答えしたのはそれがためでした。私は父親から事業承継をしましたが、父親は事業承継のタイミングで設備投資を行い、新しい設備を私に残してくれました。私もそうした経験を踏まえ、承継を見据えた設備投資を近年行っていますが、設備ももちろん大事とはいえ、結局は人材が育っていなければどうにもならないと思います。加えて、中小企業はどうしてもOJT中心で独自の教育体系を持つに至りませんし、大事なことはチームとして動けるように仕向けることだと考えました。ですから、「MIRAI会議」を寺岡さんからご提案いただいたときは、まさに千載一遇のチャンスだと思いました。

松田
もともとお持ちだった課題感に対して、「MIRAI会議」のアウトプットとしてのプレゼンテーションを聴かれた感想をお聞かせいただけますか。

髙澤社長
実は当日、頼もしく眩しいメンバーの姿に感極まってしまったんですが、それには理由がありまして、1つはここまでよく考えてくれたなと率直に感謝の気持ちがありました。そしてチームを組成し、実際にそのチームが機能して彼ら自身の手で根拠を模索して考え出してくれたことです。チームワークは普段から言っていますが、彼らがまさにそれを実践してくれたんです。嬉しかったですね。最後にもう1点挙げますと、ここ数年商材の売りの勢いが陰りを見せており、これはメーカーである当社としては看過できないことです。そうした状況にある中で、どう会社を再び上昇気流に乗せていくかを、当然社長ですから自ら考えるわけですね。逡巡しますし、模索しながらですが、今年に入って自分の中で漸く絵が描けてきた。こうなるべきで、そのために経営理念も変えなきゃならんなと。そういう思いがある中で、発表してくれたメンバーが同じベクトルのことを考えて発表してくれたので、それが本当に嬉しかった。そのベクトルを見出す行為は、当然社長の専担事項で、1人で行うわけです。それに対して普段自分は孤独に感じたことはないし、思索を巡らせているときも、俺は1人だなんて考えもしない。だけれども、彼らの話を聞いたときに、やっぱり俺は1人じゃなかったって。そう思えたことがすごく嬉しかったですね。

寺岡部長代理
髙澤社長は、参加したメンバーが自分と同じベクトルで物事を考えてくれたことが嬉しかったとおっしゃっていますが、参加したメンバーからは、同世代の仲間と一緒に自分の会社の将来について深く考え、新規事業という大きな課題に参画するチャンスが貰えたことに喜びを感じているとの話をお聞きしました。

髙澤社長
本当に怖いのは、習い性からくるアクションです。気を付けないとそこから抜け出せません。私の中でこの数カ月意識しているキーワードは、ゲームチェンジです。ゲームチェンジでルールが変わるんだから、今までやってきたことを見直さないといけない。習い性に拘泥すると、今の市場をどう守るかといった話しか出て来ないのが通例ですが、彼らはそうじゃなかった。当社の先々のことを考えて、それはお客さまの健康であるとか、憩い、そして楽しみという3つの点に対してきちんと答えを出していくべきだと。今風で言えばソリューションを提供していくのだということです。そしてそのベースにあるのは美味しさであると。プレゼンテーションが終わったときに、よくここまでやってくれたなと思いました。それは裏返すと、そこまでできっこないのではないかと見くびった部分がないとも言えなかった。決して信じていなかったわけではないんですが、勝手にガラスの天井を彼らの上に架けていたんですよね。それを見返してくれたことが、先ほど申し上げた1人ではないという確信につながったし、大きな励みとなりました。

寺岡部長代理
その点については、率直に申し上げて我々も驚きました。「MIRAI会議」は全3回構成ですが、初動を見ていると動きが緩慢であると感じていました。最初に考えるテーマとして、自分たちの強みは何かを認識してもらい、その次にその強みを活かしてどんな新規事業ができるかと問うたんです。ただ初めのうちは、新規事業という段階に発想が至らないんですよ。今ある商品をこういう売り方にすればよいとか、パッケージを少しいじってといった小手先の話に終始していました。それがたった3回でここまで昇華したことに驚きを禁じ得ませんでした。

髙澤社長
参加したメンバーは、「MIRAI会議」の3回以外にも自主的に集まって準備していたようです。聞けば、各メンバーの上司が行ってこいと背中を押してくれたというんです。上司もよく仕向けてくれたと感謝しています。普通だったら、「聞いていない」なんて声が出てくるものですが(笑)。今回2チーム体制で取り組んだわけですが、1人、私が参加させたいキーマンがいました。決して出しゃばらない性格だし、むしろ控えめすぎると言えなくもないですが、それぞれのチームの後見人になった方が良いと思って、お願いしたことがありました。

寺岡部長代理
そうですね、よくやってくださったと思います。ご本人が日本酒業界や、会社の将来に対する危機意識、問題意識を持ち合わせていたことが非常によかったと思います。その上で、会社の方向性をどうしていくのかという当事者意識を持って、会議に参加してくれたように思います。

髙澤社長
他人事として考えるのか、それとも自分事として考えるのかは本当に重要なポイントです。それによって全然結果が変わってくる。人のせいにして景気が悪いとか、例えば酒造業界で言えば、今夏は猛暑だったから誰も酒なんか飲まないと言ったところで始まらない。乗り越えるべき課題は、自分事じゃないと解決できませんよね。「MIRAI会議」を通じて参加したメンバーもそう感じ、だからこそ自分事としてアウトプットを出してきたと思いますね。

寺岡部長代理
1回目の「MIRAI会議」の場で我々が感じたのは、若手のメンバーが一様に持っていた、『地元新発田で1番いい会社に入っているんだ』というプライドです。それは結構なことでもあるんですが、一方で危険だと思ったのは、会社の強みは何かと問いかけたときに、「当社の強みは『ふなぐち』です」と押し並べて全員が答えたときですね。

髙澤社長
確かにそう言いたくはなるんだけれども、それは違うんですよ(笑)。

寺岡部長代理
社内でも先輩から言われるから思い込んじゃってるんですよね。成功体験が逆に怖いなと思いました。

髙澤社長
思考停止になってしまうんですよね。幸い、当社は他人事ではなく自分事として考えられる人が育つ土壌づくりを「MIRAI会議」を通じて行っていただきました。それを育てていくことは、今度は社長である私の責任です。いい形にして、いざ承継がなされたときに、参加メンバーが中核となって会社を牽引できるようにしていかなければと思っています。

松田
「MIRAI会議」によって次の具体的なアクションにつながった事例があれば挙げていただけますでしょうか。

髙澤社長
1つは、参加したメンバーの目の輝きが明らかに変わったことです。言うなれば自分たちの存在意義を自分たちで掴み出したのではないかと。「MIRAI会議」に参加した主要なメンバーは、20代が多かった。そうした年代だと、人から指示されてする仕事の方が多いと思うんですけれども、自分がこの会社にいる意味、意義というものを感じて仕事をしている方がレアケースだと思います。何か実績を上げるまでに至っていませんからね。「MIRAI会議」でのプレゼンテーションを経て彼らが感じ取ったことというのは、自分たちの存在意義だと思います。彼らはあれからまるで意気軒昂で、目が輝いていることを考えると、この点は変化として非常に大きいと私は思います。加えて、「MIRAI会議」に参加したメンバーだけに留まらず、社内のベテラン層に与えた刺激も無視できないと思います。若手を中心としたメンバーがここまで考え抜いてこういった提案が出てきたということは、必ずや組織全体を活性化させることにつながると思います。実際社内では社長が涙を流すようなプレゼンテーションがあったという話が膾炙されているところから、感じるものがあるはずです。仕事に慣れ、業界のこともある程度知悉している層に対して、ゲームチェンジをするということを感じさせられればと思っています。よく経営者が意識改革を求めるとおっしゃるんですけど、意識改革という言葉だけで変わるなら、そんな楽なことはない。意識が変わるということは、環境を変えないといけません。そうしないと意識なんて容易には変わりません。これから、目の色が変わった若手層を原動力に社内の雰囲気がポジティブに活性化していくことを望みます。活性化は安定した状況からは起こりません。不安定の状況があるからこそ活性化が起こるのであって、1番まずいことは不安定な状況で何もしないでいることです。この2つの点について期待していますし、特に若手層がその原動力になるんだと思います。

松田
日本各地で事業承継に悩まれている会社さんが多いですが、そういった会社さんに向けてどういう取り組みや考え方を持って立ち向かえればといった社長のお考えをお聞かせ願えますか。

髙澤社長
事業承継というと承継することばかりが目的化しがちですが、父親から私の代、そして私の代からというこのタイミングでつくづく思うのは、自分の生業は何なんだと。言い換えるならば、自分の会社の世の中における存在意義は何だということを、明確にしておく必要があると思うんですよ。承継は単なる通過点に過ぎません。承継を一度したところで、また次の承継がしばらくすれば起こります。企業はずっと続くことに意味がありますし、とりわけ同族経営でしたらなおのことですよね。

松田
通過点である承継に対して、うまくそれを乗り越えるテクニックの指南に終始しているような承継対策をしている会社さんが多いので、おっしゃっていただいた考え方がまず大事だということですね。

髙澤社長
単なる通過点、それに対するテクニック論ではなく、生業の意味だとか、会社の存在意義、世の中における役割が問われていて、これをはっきりさせておくことが大事であり、これが将来的に会社を導く大きな光となると思います。例えば300年近く続いている会社さんのお話を伺うと、重みがあります。近視眼的に、この商品のよさはどうこうといった話ではなくて、「人に対して、そして世の中に対して、当社はこう関わっていくんだ」と。これを生業とするんだとはっきり持っている会社でないといけないとつくづく感じましたし、それなくして承継しては意味がないのではとも感じます。幸い、当社はこうした機会を「MIRAI会議」を通じていただくことができました。非常に僥倖でしたので、改めて感謝申し上げる次第です。

一同
ありがとうございました。

担当者の横顔

松田 祥吾 株式会社エスネットワークス 経営支援第2事業本部 事業承継部長

上場企業の管理体制構築の実務支援や未上場企業のCFO代行を務めてきた実績を持つ。管理体制の構築にあたっては、事業部側での数値の見える化を通じて体制を構築することで、決算数値の正確性向上、決算の早期化、管理コストのスリム化を達成する手法に定評がある。金融機関への出向を通じて、事業承継に悩むオーナー社長へのソリューション提案を数多く実施した経験も持つ。

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