シニアの走り書き

当社では、ほぼ全社員が営業日ごとに業務報告や日々の所感を綴って日報としてメール送信することで、社内の情報共有手段とするとともに、メンバーのメンタリティを測るバロメーターとしても活用しています。特に若手社員の疑問、質問に諸先輩が回答することで、擬似的なメンター制度として機能しているとも言えます。本稿では、当社常勤監査役が回答した日報をご紹介することで、当社ならではの取り組みの一端をお届けいたします。

德岡常勤監査役:そのころは当社との係わりが「顧問」ということでしたので、比較的気楽な立場で「放言」していましたが、監査役ということになると多少抑えなくてはならないという意識が働き「自主規制」しています(笑)。

德岡常勤監査役:正直に言えば「計画性なき乱読」で、本屋で棚から棚へと立ち読みし、気が付いたら3時間もその本屋にいたなんてこともよくあります。活字中毒の自分にとっては「シニアになってからの至福の時間」です。そうは言っても、マーケットや投資銀行の仕事が長かったこともあり、金融や経済関係のものを読むことが多いですね。金融や経済に関心を持つ若手の方に薦めたいのは、まずは日本經濟新聞の「経済教室」や「OPINION」にしっかりと目を通すことです。最近のトピックスである貿易問題や経済政策から、人口減少問題、医療・社会保障政策など多岐に亘って現実の社会経済の問題がとりあげられています。時には多少の基本的な知識がないと難しい内容のものもありますが、各分野の専門家を中心とする書き手によって論点や主張がコンパクトに整理されており、どのような分野のどういったテーマが現在のトピックスなのかがよくわかりますので有益です。継続して読み続けることが大事ですね。 また、少し詳しい内容で読みやすいものは何と言っても「新書本」です。金融・経済関係に限ってもかなり多くの本が出版されています。僕ら「団塊の世代」の学生時代には「岩波新書」「中公新書」が中心で、「何冊読んだか」を競い合ったりしたものです。話が少しそれますが、新書本のような形態でこれだけ多くの分野の出版があって、さらにそれらが広く読まれているのは日本独自の「社会現象」ではないでしょうか?「帝国以降」*という著作(*新書本では邦訳されていない)で僕が衝撃を受けたイマニュエル・トッドはフランスの人口統計学者で、日本では新書本だけでも5、6冊の出版がありますが、その内容は知的レベルがかなり高く、彼の母国でこのようなものが大衆向けにそれほど読まれるとは到底思えません。逆に、こうしたものが新書本で手軽に手に入る日本は幸せだと思います。話を戻して金融・経済関係ですが、その中でもかなり広い分野がありますので、時勢を反映した「アベノミクス」や「日銀の金融政策」に係るもので僕が読んだ中からお薦めできる新書本を紹介しましょう。

德岡常勤監査役:月刊誌「文藝春秋」は毎号欠かさず購読していますが、これは高校生の時から続いている習慣です。まず表紙を開くとすぐ、「怖い絵」で広く知られるようになった中野京子さんが、しっかりした色刷りの絵画のコピーに洒脱な解説付きで「絵画に見る西洋史」を連載されています。中野さんの解説を読んでいると西洋史に対する深い知識や理解が伺われ、自分の無教養が情けなくなる一方、まあそこは気楽に「知識と教養のおすそ分け」をいただけるのも読書の楽しみだと感じます。そういう意味では、ワインやチーズ好きから興味が広がり、「発酵」「飲食品に係る法や歴史」「動物生物に関する分野」「農業政策」等に関する読書が増えてきたことは業務の前線にいたころや経営に携わっていた時からの変化です。金融やビジネスに係るものは、つい、脳が戦闘モードになってしまいますが、そもそもこれまで知らなかったことに関しては、素直に「フーン」と「へー」を胸の中で連発しながら楽しんでいる自分がいます。例えば、今手元にある「醤油・味噌・酢はすごい」(中公新書 / 小泉武夫)の小泉先生は日本の発酵学や農業・醸造の大学者だそうで沢山の専門領域の著作がありますが、決してアカデミズムの世界に閉じこもった方ではなく、その独特の文体と教養で多数の食文化に係る著作があり、皆さんも日本經濟新聞夕刊の長期連載「食あれば楽あり」の書き手だと言えば気が付くかもしれません。少し前のものですが、小泉先生の猟師の友達との交友を書いた「猟師の肉は腐らない」(新潮文庫)はその年の僕の「楽しい読書ベスト3」に入ります。僕にとって、ワイン史に関しては山本博先生とか、生命科学については福岡伸一先生など、新しく本が出るとつい買ってしまう著作者がいますが、「この分野ではこの人」を自分に作るのも読書の一つの方法かと思います。ビジネスや業務、専門領域以外に自分の好きな読書の分野があるのは、人生の幸せの幅を広げてくれますね。

德岡常勤監査役:文字を発明した人間は動物の中で唯一「書くことで表現し、読むことで学習する」ことができるわけですから、どんなに忙しくても多くの分野の書物に触れ、それを通じて豊かになって欲しいと願っています。「知識と感性のどちらが豊かな人が立派な人だと思いますか?」という質問をされたことがありますが、僕は「人はそもそも知らないことに感情豊かな反応をすることはできない」と思います。たくさん、できるなら奥深く知ることが第一です。当社の須原社長がよく説く「インプット⇔アウトプット」も同じようなことを仰っているのではないでしょうか。貯蓄や投資と同じく、若い時からコツコツと「文字を頭に詰め込む」という「頭の筋トレ」を続けることが、同時に「心のストレッチ」ともなり、センスと感性豊かなビジネスパーソンを育てると思います。

德岡常勤監査役:そりゃ、専門店やデパートで手に入るナチュラルチーズは美味しいですね。ワインを飲むときにも最適な「お供」です。因みに、チーズ業界では女性の方が多く活躍しており、須原社長が親しくしている本間るみ子さんは「NPO法人チーズプロフェッショナル協会」の会長であると同時に、「フェルミエ」という有名なチーズ専門店の創業者です。この「フェルミエ」や「チーズ王国」(久田早苗さんのファミリーグループ)などの専門店は、海外のナチュラルチーズを中心に品質も確かで品揃えもしっかりしています。 チーズは酪農製品であり動物のミルクが原材料ですから、四季折々の食べるものや出産期によって乳質が違い、また熟成期間によって味わいも変化しますので、ナチュラルチーズを楽しむにはそうしたことにも目を向けるとよいのではないでしょうか。最近はデパ地下やネット販売でも気軽に多くの種類のものが手に入ります。スーパーでも値段はリーズナブルなものが店頭に並ぶようになっており、よく無駄買いして家内に怒られます(笑)。 「工業製品」として作られるプロセスチーズも日本では種類豊富で手頃な値段ですから、もっと日常の中に取り入れられたらと願っています。僕が感心するのは、本来海外由来のものでも工夫を凝らして日本人に合う良いものを作り出す日本の文化と技術です。その典型は、本来モッツァレラ向けであったチーズ製造手法を取り入れて作られた「さけるチーズ」です。どこのコンビニにもあって、ランチには美味しい栄養補給としてよく食べています。(ちなみに「モッツァーレ」とはイタリア語で「引きちぎる」という意味だと習いました) 秋から冬にかけて、早春から夏季の生き生きした青草や山のハーブを食べた動物のミルクから作られたチーズが数か月の熟成期間を経て店頭に並んでいます。試してみていただきたいものです。

德岡常勤監査役:僕自身は30台半ばから6年半銀行の在ロンドン証券現地法人で働き、また、50代半ばから5年間海外ファンドが経営権を持っていたあおぞら銀行で副社長としてアメリカ人社長とともに経営を担いました。若いときに、ロンドン・東京を頻繁に往復しているうちに、成田空港で「母国」にほっとする一方、ヒースロー空港にランディングする飛行機の窓から美しいロンドン郊外の緑を目にして「ホームタウンに帰った」と感ずる自分に困惑したものです。公的資金を抱え、リーマンショックで再び経営危機に陥ったあおぞら銀行での仕事は、社長のプリンスとは経験を積んだ大人のビジネスマン同士の能力と人格をかけたぶつかり合いでしたから、いつの間にか下手な英語がアメリカナイズし、ロンドン時代の同僚からは“What have you done with our English?”と冗談交じりにからかわれました。数十年前の金融業にとっては、技術や市場の成熟度で先行する欧米がまず第一の進出先であり主戦場であったわけですが、現在の日本の立ち位置や環境を考えれば「アジア」が同じく、あるいはそれ以上に大事な地域となっていると思います。 金融は、まずは顧客の必要としている場所に出て行くわけですが、それはコンサルティングサービスも同じであり、その点当社が10年前からベトナムに進出し、タイ、シンガポールと拠点を広げていることは方向感としてはとてもよいことだと思います。現在は国内でも十分な商機や顧客基盤がある中で、あえて海外展開に資源を割くことは大変ですが、必ず花開くものと思います。僕自身は海外留学や居住経験がないまま少し遅めに海外業務に就きました。当初は英語のレベルが低すぎて、専門性の高い金融・市場業務をする上では苦しいことも多く、笑えない失敗もありました。しかし、上司がユダヤ系中東人、隣のシンジケーションヘッドが亡命ロシア系フランス人、部下は旧ローデシア出身の母を持つアフリカ系英国人でしたから、殆どそれまでの”日本流”は通じず、早くから「日本人、日本企業の文化の異質性」に気が付くことができましたし、それがなければ時を経てあおぞら銀行での困難な経営の仕事は達成できなかったと思います。 日本は国全体の同質性が高く、高度成長を牽引したかつての日本企業の「終身雇用制」は一企業の文化同質性を育んで、それがロイヤルティーや暗黙知による効率性を生み出したものと思いますが、グローバル化が進み変化と多様性が革新と新しい価値を生み出す現在では、グローバル人材こそが新しい高付加価値を生み出せるのではないでしょうか? 文化や宗教、生活習慣の違いは時として相手に対する拒否感を生じがちです。ビジネスの習慣でも同じことが言えますが、自分から胸襟を開いて広い世界と多様な文化に触れ、仕事でもプライベートでも若い人たちがもっともっとチャレンジしてグローバル人材に育って欲しいと思います。 時を経、齢を重ねてから“Hi, Tokuoka-san.How are you? I still often think of you.”なんてメールが前触れもなく飛び込んでくると、嬉しいものですよ。

執筆者プロフィール

德岡 國見 株式会社エスネットワークス 常勤監査役

大学卒業後、株式会社日本興業銀行入行を皮切りに金融マンとしてのキャリアをスタートし、証券と銀行、海外と国内、セカンダリー市場とプライマリー市場等と広範な分野において活躍を収める。その後株式会社あおぞら銀行に副社長として経営参画、リーマンショック時に再び危機に見舞われた同行の再建に尽力し、その後画期的なスキームにて公的資金の返済に道を開いた。2017年より当社常勤監査役。

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